会社を辞めた時のリアルな話

毎日バタバタな会社員時代

私が会社を辞めたのは、もう5年ほど前のことだ。
当時は、自動車製造会社で働いていた。

ポジションは、管理職一歩手前。
現場をまとめる役割を任されていたが、正直、出世欲なんてなかった。
特別仕事ができるわけでもない。
ただ、他にやりたがる人間がいなかったから、自然と押し付けられるように役職に就いた。

上司からは「とりあえず現場を見ておけ」とだけ言われる。

周りの社員たちは忙しそうに動き回っている。
そんな中で、自分だけが、固定の作業もなく、
全体の作業進行の確認と異常時の対応だけを任される存在だった。

一見、楽そうに見えるかもしれない。
でも、やってる本人にしかわからないきつさがある。


特に異常がなければ、仕事らしい仕事はない。
けれど、トラブルなんて日常茶飯事の職場だった。

品質異常、設備トラブル、工員の突発欠勤対応、
工員たちからの無茶な改善要求、
そして、上司からのパワハラ

毎日が、お祭り騒ぎみたいな混沌だった。
もちろん、サービス残業・サービス早出勤は当たり前。

そんな日々を繰り返しているうちに、
自分でも気づかないうちに、心がどんどんすり減っていった。

今思えば、あの頃の自分は、まともな精神状態じゃなかったと思う。


品質異常が発生するたびに、
「どうするんだよ、これ!」と次工程の主任に詰められる。

「その部品の箇所は、うちで確認することになってない」と伝えると、
「源流工程はお前のところだろ。お前が責任持って直せ」と無茶ぶりされる。

困って自分の上司に相談しても、
「それでも頭下げて修正してもらうしかないだろ」と冷たく突き放される。

仕方なくダメ元でお願いしてみると、次工程の主任から無視される。

困った挙句自分で対応するが案の定、修正失敗。
そしてまた、
「できないなら手をつけるんじゃねえよ!」と怒鳴られる。

今思い出しても、本当に鬱になる話だ。

辞める決意を固めた日のこと

その日、上司は有休で不在。
さらに工員が突発で欠勤し、私は工程の作業を手伝いながら、異常対応にも追われていた。

現場は当然、バタバタだった。

異常で呼び出され、対応に時間がかかり、作業は遅れ、生産にも支障が出た。


生産終了後、ようやくデスクに戻り、メールを開いた。
そこには、係長からのメールが届いていた。

「お前のところ、どうなってんだ。ラインと組みの運営が回らないのはお前の責任だ」

そう書かれていた。

嫌味ったらしい文章でながなと書かれていた。
さらに、ちゃっかり宛先CCには関係部署全員のアドレスが入っていた。

完全に、公開処刑だった。

読んだ瞬間、惨めな気分になった。

その日帰り

心が、まったく動いていなかった。
怒りも、悔しさも、悲しさも、もう何も感じなくなっていた。

ただ、「ああ、もういいや」と思った。

この瞬間、はっきりと決めた。

辞めよう。

こんな場所に、これ以上いても、自分が壊れるだけだ。
誰も守ってくれない。
誰も助けてくれない。
だったら、自分のことは自分で守るしかない。

その日の帰り道、スマホで「退職 流れ」「会社 辞め方」で検索を始めた。
まだ正式に辞めるとは言ってない。
でも、自分の中では、もう完全に決まっていた。

辞めると決意した次の日

朝、目が覚めたとき。
いつものように重い気分だった。

会社に着いても、誰の顔もまともに見なかった。
朝会議で昨日の生産遅れの報告を適当に済ませた。

心ここにあらずというか、会議で何か言われても響かなかったしどうでもいいと思った。
もうこの場所に未練なんて、何ひとつなかった。

仕事をしていても、ミスを恐れる気持ちもなかった。
どうせ、もうすぐこの席を立つんだ。
そんな気持ちだけが、頭の中をぐるぐる回っていて何を言われても淡々と仕事をした。

 

辞意を上司に伝える瞬間

辞めると決意してから、何日かが過ぎた。
毎日、どこか落ち着かない気持ちのまま会社に通った。

「今日こそ言おう」
そう思っても、タイミングを見失っては、先延ばしにしていた。

だけど、もう限界だった。
これ以上ズルズルしていたら、また自分を誤魔化してしまう気がした。


朝礼が終わったあと、意を決して上司のデスクへ向かった。

心臓がバクバクして、喉はカラカラに乾いていた。
頭の中では、

「本当にこれでいいのか」
「引き止められたらどうしよう」

そんな声が、ぐるぐる回っていた。

それでも、立ち止まらなかった。


上司の前まで行き、思い切って声をかけた。

「すみません、少し話があるんですけど」

上司が顔を上げ、私の顔を見た瞬間、何かを察したようだった。

私はその空気を無視して、淡々と告げた。

「退職を考えています」


言葉にした瞬間、肩の力が一気に抜けた。
緊張と同時に、胸の奥にあった大きな重りが、ストンと落ちたような感覚だった。

上司は一瞬黙ったあと、こう言った。

「そうか。じゃあ、係長に伝えておくよ。多分、後で面談すると思うから」

それだけだった。

意外とあっさりしているな、と思った。
でも、所詮こんなもんか。
心の中で、静かにそう思った。

退職面談と、その後の空気感

数日後、係長から呼び出された。

「少し話そうか」

そう言われ、会議室に通された。


面談といっても、特別なことはなかった。

「なんで辞めようと思ったんだ?」と聞かれたが、
私は、本当の理由を正直には答えなかった。

適当に、
「やりたい仕事ができたんで」とか、
そんな感じで伝えた。


本当は、今のポジションに対する不満もあった。
同僚にも、上司にも、たくさん不満はあった。

でも、言ったところでどうせ変わらないだろう。
なあなあで終わるか、
最悪、自分だけ他部署に飛ばされて終わるだけだ。

そんなの、もううんざりだった。


正直、今の職場に愛着なんて、もう残っていなかった。

仮に環境が改善されたところで、
「だから何?」という気持ちしかなかった。

そんな場所に、これ以上しがみつく意味なんてなかった。

退職を伝えてからの日々

自分が退職することを正式に伝えたのは、
上司と係長、そして個人的に仲が良かった先輩の三人だけだった。

それなのに、
数日も経たないうちに、なぜかみんながそのことを知っていた。

誰かが言いふらしたんだろう。
たぶん、係長あたりだろうなと思った。

でも、もうどうでもよかった。



淡々と引き継ぎ作業をこなし、
自分のデスク周りの私物を少しずつ片付けていった。

ロッカーの中の書類、
引き出しに突っ込んだままだった私物、
実費で買った工具類は後輩にあげたり

必要ないものはどんどん捨てていった。


モノが減っていくたびに、
「この会社とのつながりがどんどん薄れていくな」
そんな実感が湧いてきた。

でも、不思議と寂しさはなかった。

むしろ、スッキリしていく感覚のほうが強かった。


最後の数日間は、ほとんど惰性だった。

ただ静かに時間が流れていくだけ。

退職日が近づくにつれて、
「あと何日だ」
「あと何時間だ」
と、カウントダウンするような気持ちだった。

退職最終日

とうとう、退職当日を迎えた。

朝、いつも通り家を出た。
でも、心の中は少しだけ違っていた。

「これで最後だ」
そんな感覚が、じんわりと広がっていた。


会社に着いても、特別な空気はなかった。
周りの人たちも、普段通りだった。

淡々と、いつも通り仕事をして、
淡々と、引き継ぎの最終確認をして、
淡々と、最後の片付けをした。


最後に業務でお世話になった関係部の方々や同僚や先輩に挨拶回りをした。

先輩からは、「お前がいなくなると寂しくなるなぁ」と言われなんとも言えない気分になったことは今でもよく覚えている。

そして業務終了後、自分が使用していたヘルメットなどの保護具や作業着などを処分して社員証を返却して改めて上司に挨拶をして会社を後にした。

誰にも見送られることなく、静かに会社を出た。

「終わったな」

そんな言葉が、自然と心に浮かんだ。

まとめ

会社を辞めるというのは、
思っていたよりもずっと静かで、
思っていたよりもずっと孤独な作業だった。

誰かが引き止めてくれるわけでも、
劇的な何かが起きるわけでもない。

ただ、淡々と、日々が過ぎていき、
気づけば「自分はもうここにはいない人間」になっている。


正直、辞めたからといって、すぐにすべてがうまくいったわけじゃない。
不安も、迷いも、当然あった。

それでも、
「ここに居続けたら自分が壊れる」
そう思ったあの日の決断だけは、間違っていなかったと思う。


辞めるという選択が正解だったかどうかは、
きっと、すぐにはわからない。

でも、自分で決めて、自分で動いたことだけは、確かだ。

あのとき踏み出した一歩が、
これからの自分をつくっていく。

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